ニューロンと情報処理

脳・神経系は多数のニューロン(神経細胞)が作るネットワークです。このネットワークが障害を受けるといろいろな神経症状が現われます。神経疾患の予防や治療のためには、ネットワークで行われている情報の交換のしくみを知らねばなりません。

神経研では、ニューロンやシナプスの基本的な構造や分子の性質、また、ニューロンネットワークの解析など、幅広い領域にわたって研究を進めています。

神経細胞と組織構造

脳・神経系は数百臆の神経細胞(ニューロン)とさらに多数のグリア細胞から成り立っています。大脳皮質ではニューロンは層状(6層)に規則正しく密に並んでいます(下図)。

大脳皮質では神経細胞が層状に配列している 高度な機能を発揮する大脳皮質には、神経細胞が整然と層状に 配列されています。
(倍率 : 75倍)

これらの神経細胞の各々は単純な丸い形をしているのではなく、球形-楕円形の細胞体とそれから木の幹と枝のように伸びる樹状突起、細胞体から木の根のように長く伸びる軸索からなる複雑な形をしています(下図)。

大脳皮質錐体細胞のゴルジ染色像 ●大脳皮質錐体細胞のゴルジ染色像
この染色法では皮質にある無数の神経細胞のうちごくわずかのものが染まる。ニューロンの輪郭はよくわかるが、その内部構造は見えない。神経細胞体から多くの突起が出ている。右側の細胞体から細い軸索が下方に伸びているのが見える。
(倍率 : 100倍)

細胞体の大きさは10〜50ミクロン(1/1000ミリ)で、その中に円形の核、核小体があります。グリアはニューロンより小さく、ニューロンを取り巻くように分布して、ニューロンに栄養を与えたりしてニューロンを守っています(下図)。

脊髄運動細胞のニッスル染色像 ●脊髄運動細胞のニッスル染色像
主として、タンパク質の合成を行なう粗面小胞体が斑状に染まっている。神経細胞体とそこから出ている樹状突起の根元の部分が見える。細胞体の中心には大きな円形の核があり、その中に核小体が濃染されている。神経細胞の周りには矢印の様なグリア細胞が数多く見られる。
(倍率 : 500倍)

これらのニューロンが相互に結合してネットワークを作り、その中で情報をやり取りすることにより、情報を処理しています。

ニューロンとシナプス

ニューロンとニューロンの情報のやり取りは、シナプスという特殊に分化した構造を介して行われます。

ニューロンとシナプス

細胞体から出た軸索は,数百以上の枝分れをして他のニューロンの樹状突起や細胞体の表面に接触してシナプスと呼ばれる構造をつくります。情報は細胞体から軸索を通って電気信号として送られてきます。電気信号がシナプス部位まで到達すると、この電気信号により、シナプス小胞にあるアセチールコリンやドーパミンと呼ばれる様々な化学物質(神経伝達物質)が放出されます。

軸索終末とシナプス終末

シナプスを介する情報伝達

シナプス前細胞に貯えられていた神経伝達物質(化学物質)は電気信号によりシナプス間隙へ放出されます。そして直ちにシナプス後細胞の表面膜にあるチャネルや受容体に結合して細胞内へ信号が伝播されます。その結果、細胞内のイオン濃度が変化し、電気信号を引き起して細胞内を伝わります。ニューロンではこのように電気信号と化学的信号を交互に用いて、情報を伝達しています。

シナプスを介する情報伝達

ネットワークの形成

脳の機能を考える上で重要な役割を担っているニューロン同士のネットワークは、どのようなしくみによって作られるのでしょうか? ネットワークとは、ある部位のニューロンが他の決まった部位のニューロン(標的ニューロン)とシナプス結合をした構造の集まりであると考えると、ネットワークがうまく作り出されるためにはニューロンの細胞体から軸策が伸びていくこと、しかもこの過程が正しい標的ニューロンに向かうことが必要となります。

 ニューロンはグリア細胞から分泌される神経栄養因子やニューロンの表面にある細胞接着分子のガイドにより、軸索を伸ばし、正しい相手(標的細胞)に到達し結合(シナプス)します。このときニューロンと周囲のグリア細胞との間で情報のやり取がおこなわれ、ニューロン内では、新しい遺伝子が発現し、特定の酵素が働いてニューロンの骨格が変化します。

グリア細胞にガイドによる神経ネットワークの形成

ニューロンのネットワーク

我々は手足を思うように動かしたり、記憶したりという高度な精神活動を行っています。このような機能は脳・神経系の異なる部位が相互に結合して,次々と情報をやり取るすることによって行われています。したがってこのような機能を知るためにはまず脳のどの部位とどの部位が結合しているか知ることが必要です。

染色により神経繊維連絡を調べる

ニューロンでは細胞体から軸索終末へ、逆に終末から細胞体へと物質が運ばれてる軸索流によりその機能が保たれています。この軸索流に乗る標識物質(PHA-LやHRP)を用いことによって、あるニューロンの軸索がどのような道筋を通ってどこに到達するか(左上)、また、ある領域に軸索を送るニューロンがどこに分布するかを調べることができます。

下の図はこのような方法で、記憶に関係すると考えられる脳領域と各々結合関係の一部を示したものです。非常に多くの領域が関係していることが分かります。

記憶に関連する領野間の神経連絡